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送付貸出しサービス[自宅に本を]について

図書館長から 2
送付貸出しサービス[自宅に本を]について

平出 隆(多摩美術大学図書館長)

 新型コロナウィルスの蔓延により、多摩美術大学図書館は閉鎖されています。世界的な建築家伊東豊雄さんの設計として国内外から注目を集めるその清々しい空間へ、学生に、とくに新入生に入ってもらうことが叶わぬまま2カ月も過ぎようとしているのは、残念の極みです。
 それでもスタッフは知恵を絞り、力を合わせ、4月10日に電子書籍の貸出しサービスを開始しました。全学教員の推薦も集めながら、その冊数は6月初めには「1000冊突破」を実現しようとしています。

 さらに5月の授業開始に合わせ、在宅を余儀なくされたままのみなさんに、希望の本を送り届ける「送付貸出し」の新サービス[自宅に本を]も始めました。貸出し時の送料は無料、返却はキャンパス閉鎖解除後で可、というもの。ぜひ、この状況下で生れた図書館サービスを活用してみてください。

 多摩美の図書館は本のほとんどをじかに手にとれる「開架」方式です。しかし、現状は「全体が閉架」になったのと同然です。ゆくりなくも私が思い出したのは、35年前に10日間ほど通った素晴らしい閉架式図書館での経験です。それはワシントンDCのアメリカ議会図書館という、世界最大の図書館でのことでした。壮麗な大聖堂のような空間に同心円状に読書席が並ぶ大閲覧室に入ると、まず自分の席を決めることになります。次に検索カードの入った黒光りする引出しがおびただしく並ぶコーナーに行き、読みたい本の記号を請求分だけ書き留め、その用紙を図書館員に手渡します。席に戻ってしばらく待っていると、気さくな執事といった感じの図書館員が、求めた書籍の山を、できたての料理を配膳するように恭しく届けてくれたのです。本とその利用者に対する柔らかく丁重な物腰は、心に沁みました。
 閉架ならではのサービスの醍醐味。私たちの[自宅に本を]のサービスが、あのような知的な優しさと同類のものであってほしい、この困難な状況の中で、私はそんな願いを抱いています。

(2020.5.18)

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