図書館長から 1
電子書籍サービス[LibrariE]について
読書の歓びは、一冊の世界に浸りきることからだけ来るのではありません。本の中からこの世界へと、もう一度帰ってくるときにも湧き起ります。それは一つの大きな旅を、部屋に居ながらにして果し終える歓びです。
しかし、もっと小さな旅の歓びもあります。本棚の本の、背のタイトルの並びに目を滑らせて歩く数歩も、旅のはじまりです。それから、本の背の角に指を掛けて手前に傾け、手のひらの中でそれをぱらぱらとしてから元に戻す。たったそれだけの所作にも、一瞬に近い旅の歓びが秘められています。さあ、どこへ行こうか。
2020年4月、世界中の図書館が次々と閉ざされていくという、人類史にない出来事が起りました。なおしばらく、この苛酷な状況はつづくようです。本の背を眺めながら歩くことさえ奪われたこのような時だからこそ、図書館は、別の方法による旅のはじまりを、みなさんに用意しなければなりません。それは必要不可欠な、急ぎの仕事です。
多摩美術大学図書館はまさにこの4月から、24時間、どこからでも利用できる電子書籍のサービス[LibrariE]を導入しました。しかもこの架空の書棚においても、学生が教員やスタッフとともに、新しい本を加える選書作業に参加できるシステムにしていきます。このほかにさらに、みなさんと直接向きあう別のサービスも準備中です。
静穏な日々が戻り、もう一度ほんとうの図書館の書棚の前に立つとき、その歓びはいままでにない種類のものになるでしょう。