構造アーチのかたち
佐々木睦朗先生によるアーチ断面徹底解説
八王子図書館の構造設計を担当したのは、せんだいメディアテークや、山口情報芸術センター、金沢21世紀美術館などの構造設計も手がけた佐々木睦朗氏。
建物を設計するとき「積載荷重」をあらかじめ決めておく必要があります。貨物トラックが乗用車とは比べものにならないほど立派なバネで支えられているように、本を満載する図書館も普通の建物より大きな数値を使って設計を行います。「アーケードギャラリー」を木々のあいだを歩くような気分で通り抜けるとき、そうした荷重に耐える巨大な柱や耐震壁が視界を遮るようではいけません。特徴的なアーチ型の構造は、この難問にひとつの答えを与えています。
設計時に製作した模型
柱を1本だけ眺めてみると、上に向かって広がっていく形をしていることがわかります。1本1本の脚がグラグラしないように、三角形の板で脚と天板をがっちりと固定したテーブルを想像してみて下さい。そうした補強をなめらかなカーブでつないでいくことで、バウンドするボールの軌跡のように点で着地しながら連続するアーチの空間が浮かび上がってくるのです。
コンクリートのアーチに見えますが、実は芯に丈夫な鉄板が隠れており、荷重は鉄が支えています。コンクリートは錆や火災による熱から鉄を守り、鉄の「たわみ」を抑える役割を担っています。
さまざまなアーチ
自由なスパン、自由な高さをベジェ曲線で結んでいる。
積層ゴム
国内の有名タイヤメーカーが製造している。
自然の樹木が台風や巨大地震に耐えられるのは、しっかり張った根としなやかな幹のおかげです。アーチはたいへん「固い形」なので、このしなやかさが足りません。それに代わるのが地下に取り付けられた免震装置です。24個の「積層ゴム」と水平方向に自由に滑る27個の「すべり支承」で、図書館は空中に持ち上げられているのです。
100年に一度の巨大地震の際には、1,000トン以上ある建物全体が最大50センチゆっくり横にスライドして、この衝撃を和らげてくれます。重い美術書が満載された書架の間を安心して歩き回ることができるのも、この装置のおかげです。