設備自然の樹木のように
照明
円盤型の器具による間接照明
目指したのは、建物全体を照明器具のように使った、手元に影を作らない光です。原理はとても単純で、天井から吊された円盤の上に、45Wの蛍光灯を21本、放射状に並べただけのつくりです。直径1.6m、計50台の円盤が、天井を反射に利用した柔らかい間接光を生み出しているのです。反射効率を考慮し、コンクリートにはうっすらと白い塗装が施されています。
閲覧席に設けられたランプ
加えて、美しい図版の美術書をじっくり鑑賞するため、デスクには自分で操作できるランプが取り付けられています。電球色のランプは、十分な照度と高い演色性(自然光で見た色を基準にした指標)を補う働きを担っています。自然環境のような光の中を散策し、そこで気になる本を見つけたら、木の椅子に座ってランプを灯します。するとそこに、本と向き合う自分だけの空間が開かれるでしょう。どこか懐かしい形のランプですが、傘は新幹線の窓にも採用されている“ポリカーボネイト”です。
空調
2階の空調床吹出口
大きなワンルーム空間ともいえるこの建物を効率よく空調するため、1階のオフィスと2階では「居住域空調」という考え方を採用しています。小さな“吹出口”を床にちりばめ、そこにそっと空気を送り込むことで、大規模な空気対流を抑えつつ、居住域=人の背丈だけをじんわり空調するシステムです。そのため、フロアをコンクリートスラブ(床の構造体)から25cm持ち上げて、あいだの空間を空気の通り道としています。この空間を電源やOA配線用のスペースとしても活用することで、壁や天井の仕上げ材を廃した、コンクリートだけで作られた空間を実現しています。
窓辺の環境
2階の西側閲覧席に座ると、手の届きそうな距離にケヤキの葉が迫り、まるで木の上で読書しているような気分を味わえます。正門から続く並木道のこの場所に大きな広葉樹を選んだのは、建物に当たる西日を和らげるためでもあります。また、紫外線による日焼けから本を守るために、すべての窓ガラスに飛散防止を兼ねた紫外線反射フィルムが貼られています。木漏れ日のような影を落とすカーテンも、日射コントロールには欠かせません。加えて足もとには、ガラス面からの放射を取り除くための空調機が追加されており、樹木、ガラス、カーテンの働きを補いつつ室内環境を調整しています。
オリジナルカーテン
オリジナルカーテン
NUNOのテキスタイルコーディネーター/デザイナーである安東陽子氏が手がけたもの。氏はこのほかにも「せんだいメディアテーク」や「まつもと市民芸術館」などのテキスタイルデザインにも携わっている。
机に落ちる影
カーテン生地は、“カットジャガード”という技法を用いて製作しています。まず、ジャガード織りによって、経糸(たていと)を部分的に浮かせた柄を織ります。さらに、この浮いた経糸をカットして起毛させると、ビロードのような表情が生まれます。また、大きく浮かせた経糸を完全に切り落とすことで、そこだけうすく透きとおったオーガンジーを露出させることもできます。光の透過量を意識しながらこうした技法を組み合わせることで、木漏れ日のような優しい陰影をつくるカーテンができあがりました。カーテンのアーチ模様が逆さまなのは、閲覧テーブルに落ちる影がちゃんとアーチ模様に見えるから、なのです。
大きな木のように
大きな木の下にいるのは気持ちがいいものです。夏は日差しを程よくさえぎってくれるし、雨宿りもできます。大量の水分を含むので、近くにいるだけで涼しい“放射冷房”としても優秀です。そしてなにより、しっかりと根を張ったしなやかな樹木は、大きく広がったキャノピーを1本の柱で支える、驚異的な構造体でもあります。動物や人間も、昔から樹木を住処としてきたくらいです。この建物は、1本の木が実現させているこうした多様な働きを、さまざまな工夫で建築に置き換えようとしています。自然のはたらきの巧みさは、いつだって私たちのお手本であり、追いつきたくてもかなわない目標でもあります。